So-net無料ブログ作成
検索選択

「ネクスト・トゥ・ノーマル」の心理(ダイアナ編)・ネタバレあり [ミュージカル]

「ネクスト・トゥ・ノーマル」の続きです。どこまで続くかわかりません(笑)。ネタばれなしでN2Nの感想を書くのはほぼ無理なので今回は思い切りネタばれでいきます。

ネタばれ注意!


今回は心理面その1としてダイアナの心理と治療について感想を書きます。その前に、私のバックグラウンドについてお話します。私がどういう視点で観ているかわかりやすいように。

私は大学では教育学科心理専攻で、いったん就職したあと、母校に心理学科ができたこともあり、1年間科目等履修生(単位がとれる聴講生)として勉強しました。その時に家族療法と出会い、そちらはその後も勉強を続けて家族相談士という資格をとりました。その後、縁あって今の勤務先(某市役所の女性向け相談窓口)に就職しました。当時は臨床心理士は四大卒+5年の実務経験で受験できるという経過措置があり、私がちょうど5年勤務した時が経過措置の最後の年にあたり、たった1回のチャンスに必死で勉強してなんとか臨床心理士の資格を得ることができました。心理学分野にはたくさんの資格制度がありますが、国家資格はまだありません。家族相談士も臨床心理士も学会が母体になっている資格認定機関が認定している資格です。職場は市民向けの無料相談ということで、心理的サポートから各種情報提供まで、よろず相談的にやっています。精神疾患で通院されている方も、日常の悩み事などで相談にこられています。そんなわけで、N2Nを観ていて、なるほどな〜と思ったり、ここはどうかなと思ったり色々感じるところがあります。そのへんを書いてみようかなと。私は医者でも研究者でもなく、これは私の経験や知識の範囲でのコメントなので、ごくおおざっぱな印象だと思ってください。


◆ダイアナはどんな病気なのか?
私が最初にネクストを観たのはNYなのでCDや台本でそれなりに予習しました。だからゲイブが亡くなっていることは知ってました。でも赤ちゃんの時に亡くなったとはわかってなくて、そこにビックリしました。もし亡くなったのが1~2年前とかだったら十代の息子がそこにいるように感じるのは普通というか心情的に十分あり得ることで、観客もそう驚かないと思います。それが生後8ヶ月で亡くなった子を心の中で成長させ続け、それをリアルに感じていたとしたら普通とは言い難い(異常という言葉は使いたくないけれど)ですよね。妄想とか幻覚ということになって治療の対象になるでしょう。現実にこういう症例があるかはわかりませんが。

ダイアナは妄想を伴う双極性障害という設定です。妄想の方はおいておいて、双極性障害というのは、簡単にいうと躁(そう)状態になる時とうつ状態になる時と両方あるということです。うつ状態は、気分が落ち込んだり、眠れなくなったり、食欲がなくなったり、疲れやすくなって寝たり起きたりになることもあります。死にたいと訴える人もいますが、「死にたいくらいつらい」という意味である場合も少なくなく、自殺の危険が高い人ばかりではありません。

ダイアナの場合は、赤ちゃんの荷物を片付けているあたりがひどいうつ状態にみえます。どん底まで落ちてしまうと自殺する元気もなくて、元気になり始めに自殺企図が起こる場合がある、というのはドクター・マッデンが説明している通りです。

実際ダイアナは「あなた(ゲイブ)と踊れるなら死んでもいいわ」と言って言葉通り(?)自殺未遂をするわけですが、リストカットの跡がたくさんあったということなので、一気に死のうと思ったというよりはリストカットで深く切り過ぎてしまったのかも。迷いながらできた傷のことを「ためらい傷」と言ったりします。ちなみにリストカットは死ぬためというよりも、刃物で皮膚が切れる痛みで生きていることを実感できるからするという場合も多いようで、ダイアナが本当に死のうとしたかどうかは微妙ですね。

一方、躁状態ですが、一日中出歩いたり、運動するなど極端に活動的になります。ものすごくおしゃべりになって周りを困惑させる人も。お金を使うことに躊躇がなくなり、どんどん買い物してしまったり、性的に奔放になってパートナー以外の人とセックスしてしまう人も。そしてうつの時期にパートナーを裏切ったことを激しく悔やんだり。でも躁になるとまた繰り返してしまうのです。

ダイアナの場合は、最初の方でサンドウィッチを作り過ぎてしまうあたりもそれに近いのですが、もっとそれらしいのは大掃除をしているあたりですね。お薬を飲んでいなかったので、思い切り躁状態になってしまったのでしょう。また、ドクターが性的に誘惑していると感じている風なのもそうかも知れません。

私の疑問は、双極性障害の人は躁とうつのアップダウンは大きいのですが、みえないものがみえるとか、ドクターがロックミュージシャンにみえるとか、そういうのはあまり聞かないんですよね。双極性障害それが両方出るということってあるのかなー?

「妄想」は色々な病気の症状でもあり、色んなタイプがあって、ここでは詳しくは述べませんが、ひと言でいえば「極端な思い込み」ということになるでしょうか。私がふだん接している例では「近所の人が窓から家の中を監視している」とか、「夜中に鍵のかかっている玄関から知人の男性が侵入してくる」とかなど、聞いていて「ちょっとそれはないかなー」と思うような内容ですが、本人は真剣で、妄想という自覚がないのです。

ダイアナの場合は、ゲイブへの思いが強すぎたためか、8ヶ月で亡くなった子を18歳まで成長させてしまったという驚くべき妄想ですが、それが妄想であると認識しているふしもあり、現実にこういうことがあるのか若干疑問を感じてはいます。もちろん、作られた物語なのであり得ない設定でも構わないわけですけど。


◆心の病の治療
N2Nでは、色んな治療法が出てきます。また、精神科医療を茶化したり、問題点を指摘したりもしています。

・薬物療法
ドクター・ファインが色んな色の薬の説明をしている場面。これだけ色んな薬を飲んでも治らないの?と茶化している部分もあり、ダイアナが「結構根拠のない処方なんですね」とズバリ言ってしまう場面もあります。確かに十数年も色んな薬を試してそれでも合わないとなると、不信感が強くなりますよね。ただ、精神科のお薬は同じ薬でも人によって効き方がかなりちがうらしくて、例えば眠剤でも、ちょっと飲んだだけで一日中寝たきりになってしまう人や、同じ量飲んでもまったく寝られない人もいるとか。しかも、飲んですぐ効くのではなく、最低でも1〜2週間は様子をみてだめなら少しずつ薬をかえるというのを繰り返すことになり、本当に自分にあったお薬を見つけるのには時間がかかることが多いようです。

・心理療法(カウンセリング)
ドクター・マッデンは薬物療法とカウンセリングを併用することを提案しました。「ベイベー、イエ〜」とかやってた部分です(笑)。病歴とか「最後に幸せを感じたのはいつ?」とか聞いていましたね。家族歴なども聞いたりします。ここでダイアナと母親が似た気質だったということが語られていました。「私も活発と言われてましたが、母も活発でPTAから追い出されました。」と。私は家族療法を勉強してきたので「ああやっぱり!」と思った部分でした。世代間で似た気質や行動パターンを継承することがよくあるので。(詳しくは家族編に書いています。)

日本では精神科医は薬を処方することが主で(よく話を聞いてくださるというドクターももちろんいるのですが)、クリニックにカウンセラーがいる場合もありますが、カウンセリングを受けるということ自体がまだ一般的ではないので、N2Nの舞台のアメリカのように誰もが気軽に自分にあったカウンセラーを探しながら治療を受けるという風にはなっていない気がします。カウンセリングは保険が利かないと思われがちですが、ある種の心理療法は保険適用になっているものもあります。カウンセリング技法は数百というくらいの単位で種類があり、それを素人が選ぶのは大変。心理関係の多くの学会などが協力して長い間かけて国家資格化を目指していますが、そうやってちゃんと制度を整えていくことが利用者の利益になると思います。それは余談ですけど。

・催眠療法
劇中「目をつぶって。階段を下りて・・・」とかやっていた部分です。

催眠療法というと怪しげな「催眠術」を連想して呪術的で意識がない状態で心のうちを暴かれてしまうみたいな誤解されがちですが、全くそんなことはありません。ドクター・マッデンがしていたとおり、目をつぶり呼吸を落ち着かせたクライエントにあるストーリーに沿ってイメージしてもらいます。そしてたどり着いた所で出会ったのはどんな人だったかとか、みつけた箱を開けたらそこになにが入っているかみたいなことを答えてもらいます。私も授業や研修で先生が被験者に対して実演するのを何度もみたし私も体験しましたが、想像上の世界の中で本人も忘れていた出来事を思い出したり、問題解決のヒントを得たりすることが多いのです。もちろんそれは上手な先生が適切にガイドするからできるのであって、素人がやってはダメです。

ダイアナもそうでしたが、治療に協力的でなかったり、イメージに集中できない人はこの治療には向きません。「階段を降りて」と言われて「電気はつけないんですか」とか言ってましたもんね(笑)。

・電気痙攣療法
あまり一般的ではありませんが、今でもやっているところもあるみたいです。
All Aboutにはまさにドクターマッデンと同じ説明が書かれています。
http://allabout.co.jp/gm/gc/303020/

ちなみにダイアナが「映画で見たわ」と言っているのは「カッコーの巣の上で」のことで、「精神異常を装って刑務所での強制労働を逃れた男が、患者の人間性までを統制しようとする病院から自由を勝ちとろうと試みるという物語」だそうです(ウィキペディアより引用)。

カッコーの巣の上で [DVD]

カッコーの巣の上で [DVD]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • メディア: DVD



◆「治療する」のゴールは?
子どもを失い、16年も苦しみ続けるダイアナの治療のゴールはどこにおいたらいいのでしょう。薬物療法は不眠や気分の落ち込みなどの症状をとるもので、ダイアナがどう生きていけばいいか教えてはくれません。電気ショック療法で辛い記憶を消すことも解決にはなりません。だって、辛い体験を完全に忘れるなんて無理だし、ゲイブの死は辛いことだけど 彼を身籠もり、産み、育ててきた時間は辛いことばかりではないはずで、かけがえのないまさに「♪忘れようもない」思い出です。ゲイブが最初からいなかったと思い込むことがゴールあるはずがありませんよね。辛いことをなかったことにする(否認)ではなく、そのことに向き合う(直面化)することで少しずつ心の整理をしていくことが大切です。でもあまりにつらい体験のためになかなか直面化できないこともあるし、やり方を間違うと危険でもあります。ダイアナも赤ちゃんのものを整理しようとしてゲイブの死に直面せざるを得なくなり、深く落ち込んで自殺未遂してしまいましたよね。

最後の方で、ダイアナがナタリーにはじめて亡くなった兄のことを話す場面があります。ここでダイアナはゲイブの死を認めて、心の整理をしていく一歩を踏み出したのだと感じました。一方、同様に子どもを失う体験をしたダンもずっとゲイブを否認していました。I'm Aliveでダンとゲイブがすれ違った時ちょっとだけゲイブを見ていた感じがしましたが、ダンがゲイブのことを気になっていないはずはありません。ダイアナが家を出たところでダンははじめてゲイブに話しかけます。ここでダンも直面化できたと思います。ダンにゲイブがみえたというのは比喩的表現で実際に妄想がみえたとは思いませんが。

ネクスト・トゥ・ノーマル(=ふつうの隣)というタイトルのように、完全な回復というのはなかなかないけれどそれなりに生きていこう、そして、そうやって生きていけるんだというのがこの作品のテーマですよね。そこが私はとても好きなんです。私たちの人生に、問題が全て解決してハッピーエンドなんてあり得ないですから。ダイアナの病気も完治はしないかも知れない。それでもそれなりには生きられる。物語が終わっても彼らの人生は続いていきます。一時的によくなってもまた悪くなる時もあるかも知れない。ここはまだ途中経過。でも少しでも希望を見いだしていこうと。そこが観ている私たちにも何かを与えてくれると思うのです。受け取るものはそれぞれでいいと思いますけど。


N2Nの感想はまだまだ続きます(笑)。書ききれなかったダイアナの家族のことについては後日書きたいと思います(→家族編)。ここまで長文におつきあいくださいましてありがとうございました。


◆「ネクスト・トゥ・ノーマル」公式サイト
 http://www.tohostage.com/ntn/

◆ブロードウェイ版CD
Next to Normal

Next to Normal

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Ghostlight
  • 発売日: 2009/05/12
  • メディア: CD


◆ブロードウェイ版台本(英語)
Next to Normal

Next to Normal

  • 作者: Brian Yorkey
  • 出版社/メーカー: Theatre Communications Group
  • 発売日: 2010/07/20
  • メディア: ペーパーバック


◆楽譜
Next to Normal for Piano/Vocal/Chords: Vocal Selections

Next to Normal for Piano/Vocal/Chords: Vocal Selections

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: Alfred Pub Co
  • 発売日: 2009/11
  • メディア: ペーパーバック



コメント(0)  トラックバック(1) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 1

この記事のトラックバックURL:
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。